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2007年9月29日 (土)

亀戸天神のおいぬさま

Img_9352 藤で有名な亀戸天神に≪おいぬさま≫と呼ばれるものがあります。
境内の東側にある駐車場との境目あたり、建物の陰になったところに小さな祠があり、そこに祀られています。

祈願しながら、この≪おいぬさま≫に備え付けられている塩を擦り込むと、祈願が成就する、という信仰があります。
ご利益は「病気治癒」「商売繁盛」のようです。

Img_9373 祠があるのは、つい見落としそうな場所で、事実、私も初めて亀戸天神に行った時には気がつきませんでした。

後になってその存在を知り、再訪しましたが、おいぬさまについての説明は、祀られた祠のそばにも、境内の案内図にもありません。
亀戸天神の公式サイトにアクセスしてみましたが、サイト内の≪境内あちこち発見隊≫というページにも、紹介がありません。

そこで、亀戸天神に問い合わせのメールを送ってみました。

由緒についてのはっきりした裏付けがないので、あえて紹介していない、ということでした。

ところで、その由緒ですが、あるサイトに、戦災にあった神社跡から発掘したものを奉納したということが書かれていました。

亀戸天神には、この点も問い合わせてみましたが、やはり明確な事情は記録に残されていないようです。
ただ、元来は亀戸天神の境内にあった摂末社の狛犬だったとされている、とのことです。

私が目にしたことがある亀戸天神の古写真には、狛犬が写っているものはありませんでした。
そのため、亀戸天神には狛犬はなかったものと思っていましたが、摂末社の前にあったものなら、写されていなくても不思議はないかもしれません。

Img_9369 神社には狛犬以外にも≪神使≫と呼ばれる、文字通り「神の使い」の動物像が設置されていることがあります。その中には≪山犬≫や≪犬≫のように、≪おいぬさま≫と呼ばれるにふさわしいものもあります。

塩まみれの上、破損も激しいのでわかりにくいのですが、もしかすると狛犬ではなく、本当に≪犬≫かもしれません。
それは一度塩を拭い取ってきれいにしてみなければ断言できません。

いずれにせよ、写真のようにかなりひどく破損しており、戦災にあったというのは信憑性のあることに思えます。

上記のようなことを考えると、摂末社にあった狛犬が戦災にあって破損し、相棒を失って単体になったため、境内の隅に置いておいたところ、自然発生的に≪おいぬさま≫信仰が始まった、という流れなのではないかと思えます。

私が、「自然発生的に」と考えるのには、理由があります。

亀戸天神がある江東区に、宝塔寺という寺があります。
ここに≪塩舐め地蔵≫あるいは≪いぼ取り地蔵≫と呼ばれるものがあります。
これがやはり、塩を擦り込んで祈願するという形の信仰なのです。

文献的に裏付けを取っていませんが、≪塩舐め地蔵≫の方は江戸時代までさかのぼることが出来る信仰のようです。

地蔵尊像自体には石井某によって小名木川から掘り出され宝塔寺に納められたとの伝承があり、寺の前を通る塩商人が売り物の塩を地蔵に供えたのが、信仰の起源であると伝えられているようです。

江戸時代、東京湾の行徳あたりでは塩を生産しており、そことの間を行き来する商人の交通路に当たっていたようです。
私も発掘にかかわっていた頃、当時の製塩具である焼塩壺に『行徳』の銘があるのを見たことがあります。

名前にあるように≪いぼ取り≫にご利益があるということですが、≪おいぬさま≫の病気治癒と似ています。

先行して≪塩舐め地蔵≫があり、それに倣って≪おいぬさま≫信仰が生まれたというのは、それほど的外れな発想ではないと思います。

現代になっても、こうした民衆信仰は生まれうるという一例のように思えます。

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コメント

「おいぬさま」の記事、大変興味深く拝見しました。亀戸天神のすぐ近くに住んでいるのでよくお参りするのですが、今家族が体調を崩しているので、「おいぬさま」にも欠かさず手をあわせています。塩まみれの「おいぬさま」を拝むたび、由緒が知りたいな~、本当はどうやってお祈りするのかな~、といつも祠の前でギモンに思っていました。
おかげさまでその答えを知ることができ、大感激です。本当にどうもありがとうございました!

>ネコまんまさん

お読みいただきありがとうございます。
本文はあくまでも推理ですので、感謝されるとなんだか恥ずかしいです(笑)
なお、ご家族が体調を崩しておられるとのことですが、良くなられるよう祈念いたします。
お大事に。

岡山在住で、最近、狼(山犬)信仰に興味を持って調べている者です。
この「おいぬさま」の正体は山犬ではないでしょうか。狼へのお供えは塩とされていると聞いています。狼信仰で知られる岡山県高梁市の木野山神社でも、岡山県津山市の貴布禰神社奥御前社でも、塩のお供えが見られます。特に後者のやしろは塩まみれ状態で有名です。狼に塩という習俗は、岡山だけでなく、全国的にあるそうです。
亀戸天神内には御嶽神社があるそうですが、武蔵御嶽神社は大口真神(おおかみさま)を祀る神社。その近くにある「おいぬさま」は、塩を供えるという形から見ても、病気平癒というご利益から考えても、狼信仰のように思えます。岡山の木野山神社は病気平癒でとても有名なので。
「おいぬさま」の石像は風化が激しくて何の動物かよく判らないようですね。狼型の狛犬だったのか、普通の狛犬だったけど手近にあったので転用したのか。いろいろ謎は残りますが・・・。
余談ですが、私は東京下町生まれです。亀戸天神にも何度か行ったことがあります。意外な所に狼信仰らしき(?)物件があって驚いています。今度、帰省した折には、ぜひ訪れたいと思っています。

>Lassieさん

ありがとうございます。
山犬と塩に結びつきがあるとは知りませんでした。
貴重な情報をご教示いただき感謝いたします。

ちなみに、掲載した写真をご覧いただくと、「おいぬさま」の背中に丸い部分があるのが分かります。
これは、破損したものを接合する際に場所を間違えてしまったもので、本来は尻尾ではなかったかと考えています。

このように尻尾を丸めたものを、神使に関心のある者は「和犬」と呼んでおり、主に不動尊を祀った寺社に置かれています。

これに対して山犬の石像は、尻尾がもっと細く、身体の側面に流す形に造形されます。

もっとも、江戸時代の庶民が和犬と山犬をどの程度厳密に区別していたのか、という点は、はっきりしたことは、私には分かりません。

岡山在住とのこと。
岡山は狛犬も面白いところですので、ぜひ神社を回ってみて下さい。

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