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2007年10月 5日 (金)

犬嫌い

愛知県知多半島の先に篠島という島があります。

ここにある篠島八王子社は「犬嫌いの神様」として知られています。

篠島では正月三日の夜に八王子社の神が同じ島内の神明神社に渡御するとされており、島民はそれを見ないように、その夜は雨戸を閉めて明かりも消し、物音も立てないようにして家にこもるという風習がある。

ある時、その渡御の最中に犬が吠える声がした。

それ以来、海が荒れて漁が出来なくなってしまったため、島民が八王子社に祈願に行くと、参道の狛犬が台座から転げ落ちていた。

そこで狛犬を台座に据え直したが、次に行くとまた転げ落ちている

そんなことが何度も起ったため、八王子社の神様は犬が嫌いなのだ、ということになり、島内の医徳院という寺に狛犬を移したところ、海は静まった。

狛犬の移設だけでなく、この伝承のため、島では犬を飼うことが禁忌となっているとのことです。

狛犬愛好家にとっては、よく考えるとおかしな話で、犬が吠えたのに、狛犬が排除されなければならないというのは、全く筋が通りません。

狛犬の祖先はライオンなのですから。

しかも、この篠島八王子社のご神体は、伊勢の箕面大社から奉納された獅子頭だというのです。

獅子頭と狛犬は祖先を同じくする仲間です。

『獅子頭がご神体で、狛犬は嫌い』というのは、実に納得がいかない話です。

結局のところ、≪狛犬≫という名称に引きずられ、犬の仲間にされてしまったということでしょう。

似たような話があります。

奈良県吉野町の窪垣内地区には大海人皇子(後の天武天皇)にまつわる云い伝えが残っているそうです。

ある時、大海人皇子が賊に追われ、吉野川に沿って逃げた。

窪垣内に到った時、川渡しの老夫婦が舟をひっくり返して皇子を中に隠した。

ところが、賊の犬が舟の周囲を嗅ぎ回りはじめ、皇子が見つかりそうになる。

そこで、老人が赤い石を投げつけて犬を殺し、皇子は助った。

それ以来、この地区では犬を飼うことが禁忌となった。

この地区内に皇子を助けた翁を祭神とする御霊神社があり、こうした謂れから狛犬がない、というのです。

これもまた、狛犬と犬が同一視されています。

結局のところ、狛犬の正体が何であるかにこだわるのは、特殊な人間だけで、庶民信仰としては「狛犬も犬も一緒」ということなのでしょう。

世界の広さもライオンも知らない近世以前の日本人には、狛犬と獅子の関係も、狛犬と犬の違いも、どうでもいいことだったのでしょう。

そんな瑣末なことよりも、漁の安全の方が大事だし、それで海が静まるのなら理屈に合わないことでも何でもやる、という庶民の素朴さや逞しさを感じます。

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