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2007年10月 4日 (木)

ヘテについて

朝鮮半島における『狛犬の隣人』と言えば、≪ヘテ≫が挙げられます。

ソウル市にある景福宮光化門前のものは、特に有名でしょう。

しかし、この≪ヘテ≫とは一体何なのでしょうか。

「韓国伝統文化事典」(国立国語院編 教育出版株式会社 2006年)の『ヘッテ』の項目からその特徴を取り出して列挙してみると以下のようになります。

  1. 守護神とされる想像上の動物。
  2. 獅子に似て、たてがみの中に鹿に似た角が一つある。
  3. 善悪を判断し、人の争いを見ると、正しくない方を角で突く。
  4. 火事や災いを退治する。
  5. 建物の入口に左右一つずつ立てる。

このうち、(3)から即座にイメージされる神獣が存在します。

≪獬豸≫です。

漢代に成立し、清代に編集された「異物志」によると、≪獬豸≫には一本の角が生えており、人が争うのを見て、善悪を弁別し、角で悪人の方を突く、とあるそうです。

「韓国伝統文化事典」では

ヘッテは中国の古い文献によれば、東北の辺方にいる動物で角が一つある。

と記述していますが、前漢の東方朔の著書という伝説のある「神異経」に、≪獬豸≫は東北の荒野にいるとの記述があるということなので、「韓国伝統文化事典」が≪獬豸≫のことを≪ヘテ≫としていることは間違いないようです。

では、≪獬豸≫が≪ヘテ≫なのでしょうか。

「説文解字」などは≪獬豸≫は牛に似ているとしていますし、「漢書」の注によれば鹿に似ているとしています。
明の太祖・朱元璋の陵墓である明孝陵の参道にある≪獬豸≫像(リンク先の写真の一番手前)は、決して牛や鹿に似ているとは言えませんが、足には蹄があり、牛や鹿を意識していることは確かでしょう。

この点では獅子に似ているという≪ヘテ≫と食い違います。
上のリンク先の写真を見ると、足も獅子風の鉤爪で、蹄ではありません。

一方、≪ヘテ≫に≪海駝≫という漢字を当てている記述もあります。
手持ちの資料が少ないので検索にかけてみると、「鱗を持った水獣」とした記述も見つかります。
現在広く見ることができる光化門型の≪ヘテ≫はそのように作られているようです。

水に関わる神獣であれば、(4)の火事を退治するという特徴にうなずけます。
また、古代オリエント以来、ライオンは水と関わりのある動物として扱われてきました。
その点から、獅子に似た動物である≪ヘテ≫が水と関わりを持つのは、自然な成り行きに見えます。

しかし、≪獬豸≫を水に関連するものとした記述は見つけられませんでした。
鱗についても同様です。

ただし、孝陵の≪獬豸≫像や清の雍正帝の泰陵の≪獬豸≫像には鱗が表現されているようです。

ちなみに、火を避ける一角獣として「山海経」には≪〓疏≫(カンソ。〓は「灌」のさんずいを月偏に換えたもの)というものが挙げられています(これは馬に似た獣とされています)。
また、時代はぐっと下がりますが、沖縄のシーサーにも火難避けの意味があります。

こうして見ると、≪ヘテ≫は≪獬豸≫を母体としつつ、その他の神獣の要素も取り込んだものと考えるのが妥当なように思えます。

この≪ヘテ≫が、朝鮮半島にいつ頃から存在しているのか、はっきり記した資料を見つけられませんでした。

Hete_3 少なくとも李氏朝鮮時代には存在していたと思われますが、例えば、「韓国伝統文化事典」に掲載されている李氏朝鮮後期の『ヘッテ図』(引用写真)という絵に描かれている≪ヘテ≫は、「本草綱目」(16世紀末成立)に掲載された獅子の図とそっくりです。
完全に獅子以外の何ものでもありません。
上のリンク先の陶磁器の≪ヘテ≫も、どうも獅子のように見えます。
あるはずの角も見えません。
この時点でも、≪ヘテ≫の図像にバラつきがあるということでしょう。

その意味からは、光化門型の≪ヘテ≫も、それほど古いものではないのかもしれません。
景福宮の光化門自体は、1397年には完成していたようですが、その時からこの≪ヘテ≫が存在していたのかどうか、調べがつきませんでした。

≪ヘテ≫の謎は、いまだ深いままです。

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コメント

「兕」について調べていて此方のブログたどり着きました。

韓国のホームページですが、中国漢代と思われる古い様式の「獬豸」らしい写真をみつけました。

http://www.bulgyofocus.net/news/articleView.html?idxno=50199

3-4世紀の魏(ぎ)・晋(しん)時代の作。

だったのですね。
失礼しました。

コメントありがとうございます。
ハングルが読めないので、リンク先にどのように説明されているのかはわかりませんが、このブログの鎮墓獣のところでリンクをつけたものと同種のものだと思います。
長いこと更新をストップしているブログですが、何か気のついた事があれば、また書き込んでください。
よろしく。

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