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2008年4月15日 (火)

ほっかいどうの狛犬―その3

さて、問題は(1)の≪現地に存在する狛犬に類似の神獣≫です。

これが成立するためには、大前提としてアイヌの信仰習俗の中に狛犬に類似したものが存在しなければなりません。
しかし、19世紀のアイヌの信仰について調査したジョン・バチラーの「アイヌの伝承と民俗」(安田一郎訳 青土社 1995年)を読むと、アイヌには様々な動物への信仰が存在しているものの、狛犬のように、それ自体は崇拝の対象とならず、神聖なものに付随して、その神聖なものや空間を守護するような神獣は存在していないようです。

ある本に掲載された有名な熊送りの祭=イヨマンテの様子を描いた絵を見ると、熊の横たえられた祭壇状の空間の手前の左右にささら状のものが設置されているのが描かれていました。
これは≪イナウ≫と呼ばれる、木を削って作られた「木幣」のようです。
同様にイヨマンテを描いた別の絵では、同じ場所に木の枝らしきものが描かれており、アイヌにおいては神聖な場所の清浄を保つ力を植物(特に木)に求めていたのではないかとも思えます。
もしそうであれば、動物が植物に置き換わっているだけで、狛犬的と言えなくもありません。

しかし、「アイヌの伝承と民俗」によれば、これは熊への捧げものであって、避邪物ではないようです。

ただ、避邪のための≪イナウ≫も存在しており、「アイヌの伝承と民俗」には、近隣の村で伝染病が発生した際に、その村に近い側の村の端に病気を避けるために、鳥を象った≪イナウ≫を設置するということが紹介されています。

しかし、これを狛犬に類似しているものと見るのは無理があるでしょう。
そして、実際、そんなイナウを想像させるような狛犬は、存在していないようです。

つまり、(1)は北海道においては成立していない、ということになりそうです。

ただ、敢えて言えば、著者が半分冗談のように紹介している「擬狛犬」に、その可能性を感じます。

「擬狛犬」とは、えりも町にある歌露稲荷神社にあるもので、「擬」とある通り、その実態は狛犬ではありません。
社殿の前になぜか対になるように設置された自然石のことを指しています。
著者は、昭和の後半に現在の社殿が建てられた時に置かれたのではないかと推測しています。

私がこれを敢えて取り上げるのは、「アイヌの伝承と民俗」の『呪物崇拝(c)』という章において、アイヌにおける石信仰を取り上げる中で、以下のような事例が紹介されているからです。

有珠に住むオプルツという名のアイヌが、自分の小屋の側に高さ4フィートの彫刻されていない自然石を立てていて、著者の解釈するところでは、オプルツは時々これに敬意を払い、その石から保護と幸福を保証されていると考えている、というのです。

明確には書かれていませんし、より積極的な意味があるようにも思えますが、この石を避邪物と解することは可能でしょう。

著者は、「狛犬を設える予算がなかった」ためにこのようなことをしたのだろうと推測していますが、アイヌの石信仰に由来するという可能性はないだろうかと、考えてみたいのです。

妄想に近いものではあるのですが。

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