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2008年7月28日 (月)

獅子舞と中国獅子

(2)(3)で取り上げたたてがみ他の植毛のことですが、遺存している獅子頭に植毛痕があることから予測できることです。
しかし、長めの直毛であるという点は遺存例からはわかりませんでした。
調度の『狛犬』でも、直毛主体のたてがみを持つ例はあります。
ただ、完全に直毛のみのものはあまりなく、どこかに巻毛が含まれます。
特に、下顎のラインに沿った衿状の毛には、たいてい巻毛が混じります。

その点では、直毛しかない獅子舞と『狛犬』には差があります。

次に、(5)の「背中に毛がある」ことについて。

現在見られる獅子舞では、一部を除いて胴体は毛のない布(緑地に唐草模様が広く見られる)を用いていますが、この「年中行事絵巻」のものには毛があります。
しかし、よく見ると、毛は身体全体は覆わず、どの獅子舞も被っている布の端が見えています。
また、毛は、頭部から尻尾までつながる帯状の部分から左右に垂れ下がる形になっています。

これはもしかすると、体毛を表しているのではなく、たてがみの一部なのではないでしょうか。

というのも、中国の獅子像には、このように背筋に沿って尻尾まで続くたてがみというものがしばしば見られるのです。
古い時代のものは実物を見ていないため背中の様子がわかりませんが、実見したことのある比較的新しい時代のものでは、少なくともそのようなたてがみが見られます。

一方、これは『狛犬』にはまったく見られない特徴です。

(6)の「小ぶりの尻尾」ですが、このようなシンプルで小さい尻尾というのは、やはり『狛犬』には見られないものです。
そして、これも時代の新しいものとの比較になりますが、中国獅子では、主に北獅において、尻尾を小さく作って強調しない作風というものが見られるのです。

この(5)(6)の特徴は他の資料でも見られます。

町田市立博物館の図録で取り上げている「北野天神縁起絵巻」は室町時代のものですが、そこに描かれた獅子舞は、顔の感じは異なるものの(5)(6)の特徴を持っています。
2001年に開催された「天神さまの美術」展(東京国立博物館他)の図録には、成立年代は室町時代から江戸時代と「年中行事絵巻」より下るものの、複数の天満宮の「縁起絵」が掲載されており、そこでも確認できます。

ちなみに「天神さまの美術」展の図録に掲載された大阪天満宮所蔵の「天神縁起絵」に描かれた獅子舞は、有角と無角の2頭が神輿の前を並んで進んでいるように描かれています。
しかも、獅子頭はともに赤であるものの、胴の布は桃色(有角)と青(無角)になっています。
これは江戸時代の作品ですが、何に基づいてこのように描いたのか興味深いところです。

閑話休題。

以上から言えることは、同じ木彫である『狛犬』と獅子頭には、獅子頭の方が極端にデフォルメされているものの共通した特徴が見られるが、獅子舞の全身像となると、『狛犬』よりも中国の獅子像により近い部分がある、となるでしょうか。

いずれにせよ、舞楽の≪狛犬≫と調度の『狛犬』の関係は、一方が他方に転じたというような単純なものではないことは間違いないでしょう。

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