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2021年12月 2日 (木)

話が長い狛犬(3)

群馬県高崎市南町の愛宕神社に昭和9年11月(1934)奉納の狛犬がある。

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阿像側に

 

「奉納者/高崎菊菓会員/発起人/武井文策/昭和九年十一月/高崎市外田中/刻 永井數惠」

 

「高崎製菓業組合/組合長/清野義一郎/高崎市南町
 高崎市菓子商組合/副組合長/須永松太郎/高崎市八島町
 高崎市菓子商組合/理事/井上秀武/高崎市本町
 高崎市製菓業組合/副組合長/武井文策/高崎市中紺屋町」

 

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とあり、吽像側に

 

「高崎菓子業組合聯合会長/高崎商工会議所副会頭/高崎市本町/石坂実
 群馬県菓子業組合聯合会長/高崎商工会議所議員/高崎市連雀町/清水浜吉
 高崎市菓子業組合理事/高崎市中紺屋町/中島理一
 全国パン業組合理事長/高崎市桧物町/松浦福三郎」

 

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とある。

 

さらに、吽像側には、このような銘文が刻まれている。

 

「昭和九年十一月/天皇陛下統監陸軍特別/大演習於群馬栃木埼玉/三縣平野置大本営於群/馬縣廳舎□□観兵式於/乗附練兵場賜□於歩兵/第十五聯隊営庭於演習/関係下賜十六菊花御紋/章入菓子者數萬人恭□/賞功奨□尚歯犒労以博/愛民之聖慮也焉□官豫/卜場於群馬會館使精業/者謹製之人皆斎戒沐浴/専念全社□□當時従事/者中高崎在住別記八/名□盟稱菊菓會醵費以/石刻狛犬一對獻之當社/□永記念光栄是因感恩/頌□之誠意也/昭和九年十二月□旦□需關吉清竝書」
(□は判読できなかった)

 

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昭和9年11月に北関東で大規模な軍事演習=陸軍特別大演習が行われた。
大元帥たる昭和天皇は、もちろんこれに参加している。
演習は11月11日から13日まで行われ、11月14日には観兵式が開かれた。
その後、11月15日から17日まで行幸が行われ、18日に皇居に還御している。

 

台座の銘文によれば、この際に下賜された菊の紋章の入った菓子の製造を、群馬県の製菓業者が請け負い、そのうちの高崎市内の業者8名が、その栄誉の記念に菊菓会を結成し、狛犬を奉納したということになる。

 

この大演習と行幸について記録した「昭和九年陸軍特別大演習並地方行幸足利市記録」(昭和11年11月25日 足利市役所)には

 

「今般陸軍特別大演習に際し、思召を以て、高齢者・篤行者及軍人遺族竝傷痍軍人に對して、御紋菓御下賜の沙汰あり」

 

との記述がある。
そして、「昭和九年陸軍特別大演習並地方行幸高崎市記録」(昭和10年6月25日 高崎市)には「御紋章入御菓子の謹製」との項があり、以下のように書かれている。

 

「大演習賜饌竝高齢者及傷痍軍人等御下賜用の御紋章入御菓子謹製に関しては、前橋、高崎両市の菓子業者十六名謹製の御下命を拝受し、群馬会館内商品陳列室を謹製所として諸般の準備を整へ、十月一日午前十一時より金井宮廷係長、前橋、高崎両市長、両商工會議所會頭外来賓多数列席し、厳粛なる修抜式を挙行して、謹製に着手し、厳選せられたる従業員七十名は、毎朝六時起床し、朝食の後制服を著け、宮城を遙拝して謹製に當れり、かくて十月二十八日謹製を了し、宮内省掛員に納付申上げたり。」

 

そして、高崎市内の8業者が列挙されている。

 

高崎市本町 徳若商店 石坂實
同 連雀町 日英堂  清水濱吉
同 中紺屋町 高榮堂 中島理一
同 南町       清野義一郎
同 中紺屋町     武井文策
同 本町 亀鶴堂   井上たま
同 檜物町 松浦製菓 松浦福三郎
同 八島町 梅玉堂  須永松太郎

 

狛犬の台座では店の名前がなかったが、こちらには店名がある。
また、台座では井上秀武となっているが、こちらでは井上たまとなっている。
おそらく、これは母子なのだろう。
主人が死んで息子が後を継いだが、店の名義が母親の方だったのではないか。

 

そして、「昭和九年陸軍特別大演習並地方行幸記念写真帖」(昭和10年4月25日 群馬県)を見てみると、その中に「御紋菓謹製」「御紋菓」という写真が掲載されている。
これが彼らが製造した御菓子だろう。

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ちなみに、前橋側の業者名がわからないかと思い、「昭和九年陸軍特別大演習並地方行幸前橋市記録」(昭和11年8月15日 前橋市)を確認してみたが、業者名はおろか、下命を受けたことの記述も見当たらなかった。

 

私はまだ、前橋市内の狛犬を見に行ったことがないのだが、前橋側の業者は狛犬を奉納したりしてはいないのだろうか。
それとも、高崎の真似になると思って、狛犬以外のものを記念としたか。

 

前橋に行く際の宿題が出来てしまった。

 

しかし、演習が行われたのが昭和9年11月なのに、同じ月に狛犬が奉納されているのは、いささか仕事が早すぎる気もする。
とは言え、菓子の製造自体は10月1日から始まっているし、業者の選定はそれ以前のことだろうから、選定を受けてすぐに狛犬を発注すれば、間に合わないこともないだろう。

 

あるいは、狛犬の奉納自体は後日で、日付だけ大演習のあった11月にした可能性も考えられる。

 

いずれにせよ製菓業者たちの得意気な顔が見えるようである。

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