狛犬の定義

2007年8月31日 (金)

狛犬の定義

以上を改めて列挙してみます。

1)狛犬は神聖な場所に置かれる。

2)狛犬は神聖なものの前であれば屋内にも屋外にも設置される。

3)狛犬は石と木を中心に様々な素材で作られている。

4)「狛犬」は2体で左右1対になっているが、厳密には≪獅子≫と≪狛犬≫という2種類の神獣に分けることができる。

5)狛犬は、口を開閉する「阿吽」の形式を取り入れている。

6)狛犬の祖先はライオンである。

少し整理してまとめてみましょう。

狛犬は、神聖な場所や存在に対して、左右2体を1対として設置される神獣で、多くの場合、一方が口を開き、他方が閉じる『阿吽』の形態をとる。ライオンを祖先とし、厳密には獅子と狛犬に分類できる。

以上を、「狛犬」の定義として、これに基づいて、まずは狛犬の源流について考察してみます。

2007年8月30日 (木)

狛犬とライオン

6)たてがみがあり、牙と鍵爪を持つ猛獣。

狛犬の外見上の特徴を挙げると、これに尽きます。

そして、この特徴にもっとも合致する実在の動物はライオンです。

事実、「獅子と狛犬」で触れたように、「狛犬」はかつて「獅子・狛犬」と呼ばれていたわけですが、そのうちの獅子とは、ライオンを漢語にしたものです。

ライオンが中国に伝来した際、サンスクリット語でライオンを意味する“Simba”に基づき、当初は「狻麂」と訳されたが、既に存在した「狻猊」という怪獣と混同されたため、“Simba”の第一音をとって、「師」と表現されるようになり、それに「犭」偏を加えて「獅」となった。

との説明が、中国で出版された「中国獅子雕塑芸術」という書籍にあります。

ここにさらに接尾語の「子」をつけて「獅子」になったわけです。

外見上の特徴、そして言葉の由来、いずれもがライオンを指す以上

6)狛犬の祖先はライオンである。

とするのが妥当でしょう。

2007年8月29日 (水)

阿吽

5)口開いたものと閉じたものがいる。

2体1対のうち、一方が口を開き、他方が閉じるというのは、いわゆる「阿吽」と呼ばれる形式です。

口を開いたものが「阿」、閉じたものが「吽」です。

一般的には

サンスクリット語の“a”と“hum”の音訳。「阿」は口を開いて発する声。「吽」は口を閉じた声。サンスクリット語の字母表(悉曇字母)の最初と最後の字。この二字の中に万物の始源と窮極とがあると認めることから、最初と最後の意。

と説明されます(「新潮現代国語辞典」に補足)。

この「阿吽」という形式は、寺院の金剛力士(仁王)像にも見られるものなので、いかにも仏教的な概念に見えます。

しかし、仏教発祥の地であるインドや、日本にとって仏教の直接の源流である中国で成立して、仏教とともに伝来したものではなく、日本への伝来後に真言密教において独自に組み立てられたものという説もあります(「日本国語大辞典」はその立場をとります)。

そのためか、狛犬はほとんど「阿吽」を取り入れています。

その一方で、日本の神社でも中国の獅子像を設置している場合があるのですが、そういうものは双方が開口あるいは閉口となっていて、「阿吽」になっていない場合が多く見られます。

ここは、

5)狛犬は、口を開閉する「阿吽」の形式を取り入れている。

と言い換えておきます。

2007年8月28日 (火)

獅子と狛犬

4)2体で左右1対になっている。

狛犬は左右1対になっています。

対にならずに単独で存在しているものがあったら、特別な理由がない限り、それは単に相棒を失ったものです。

さて、この左右1対ですが、注意するべきことがあります。

「狛犬」は、実は1種類の神獣ではない、ということです。

古い文献を見ると、現在は単に「狛犬」と呼んでいるものを、「獅子・狛犬」と呼んでいる例が見られます。

つまり、元来は≪獅子≫と≪狛犬≫という2種類の神獣を対にしたものであると認識されていたわけです。

よく例に出されるのは、狛犬の定義を書いた最も古い文献の一つである『類聚雑要抄』巻四で、そこにはこう書かれています。

左師子於色黄、開口 右胡摩犬於色白、不開口、在角

ここで言う「師子」とは≪獅子≫であり、「胡摩犬」は≪狛犬≫のことです。

つまり、大まかに言うと、対になった「狛犬」のうち、角があるものが≪狛犬≫、角がないものは≪獅子≫だということです。

この「獅子・狛犬」が、やがて単に「狛犬」とまとめて呼ばれるようになったのです。

狛犬について書かれた文章でしばしば「広義の狛犬」「狭義の狛犬」という言い方をするのは、前者は「獅子・狛犬」を総称したものを意味し、後者は「獅子・狛犬」のうちの獅子ではない方を意味する、ということなのです。

ところで、≪獅子≫と≪狛犬≫という2種類の神獣を1対とする形式は、しかし、やがて厳密には守られなくなります。

特に参道狛犬では、種類や地域によって差はあるものの、19世紀あたりから角が失われていく傾向にあります。

角がないということは、これは≪獅子≫ということになります。

近代以降の「狛犬」は、実はその多くが≪獅子≫2体を1対にしたものとなっています。

にも関わらず、名称としては「狛犬」が定着してしまっているのです。

大変皮肉なことです。

そこまで考えるとややこしくなるので、

4)「狛犬」は2体で左右1対になっているが、厳密には≪獅子≫と≪狛犬≫という2種類の神獣に分けることができる。

ということにしておきましょう。

2007年8月27日 (月)

狛犬の素材

3)石で出来ている。

私たちがよく目にする狛犬はほとんどが石で出来ています。

しかし、注意が必要です。

“よく目にする”狛犬が“石で出来ている”のは

a)よく目にする=神社の建物の外にあるので目立つ。

b)石で出来ている=露天に置かれているので丈夫な素材で出来ている。

ということです。

つまり、風雨にさらされない屋内なら石である必要はありませんし、風雨に耐えられるものならば石でなくてもいいわけです。

既に「狛犬の設置場所」で触れたように、屋内に設置された狛犬は、多くの場合木製です。

石と木以外では、陶器金属(銅・青銅・鉄)もあります。

それは屋内外を問いません。

時代が進めば、その時代なりの素材が用いられることでしょう。

実際、近代以降ではコンクリート製の狛犬もあります。

したがって

3)狛犬は石と木を中心に様々な素材で作られている。

とするべきでしょう。

2007年8月26日 (日)

狛犬の設置場所

2)参道に置かれている。

これも、通常もっとも目立つのが参道にあるものというだけで、参道だけにあるわけではありません。

例えば、神社を参拝する時に拝殿の中を覗いてみると、鮮やかに色を塗られた狛犬があることに気が付くでしょう。

また、本殿の外に廻らされた回廊に狛犬が置かれている場合もあります。

狛犬愛好家は、こうした社殿内の狛犬を≪神殿狛犬≫、参道などの境内の屋外に置かれたものを≪参道狛犬≫と呼び分けています。

呼び分けることには、それなりに根拠があります。

素材面から言えば、≪参道狛犬≫は堅牢な石などである場合が多く、≪神殿狛犬≫は木製が主です。

また、移動の都合などもあるのでしょう、≪神殿狛犬≫は≪参道狛犬≫と比較すると相対的に小型です。

≪神殿狛犬≫は神社の調度としての性格があり、一定の形式に従ったものが多いのですが、≪参道狛犬≫は表現のバリエーションが豊富です。

そこには、歴史的な流れがあり、狛犬は初めは屋内に設置されたものが、時代が下ってから参道などの屋外へと出て行くという経過をたどっているのです。

とは言え、微妙なものもあります。

「狛犬の居場所」で触れた東大寺南大門の狛犬は、場所としては参道に位置していますが、門という建造物の中にあります。

これは≪参道狛犬≫なのでしょうか、それとも≪神殿狛犬≫でしょうか。

本殿の周りを塀が囲み、本殿の前方に拝殿がある、という形式の神社は多くありますが、その本殿を囲む塀の内部の露天に狛犬が設置されている場合があります。

これは、どちらだと考えれば良いのでしょうか。

そもそも、≪神殿狛犬≫と≪参道狛犬≫に本質的な違いがあるとは思えません。

社殿の内部にあるか、屋外にあるかで、その持つ意味に違いは特にありません。

便宜的な呼び分けに過ぎないと、私には思えます。

いずれにせよ、

2)狛犬は神聖なものの前であれば屋内にも屋外にも設置される。

ということになります。

2007年8月25日 (土)

狛犬の居場所

1)神社に置かれている。

現在、狛犬がもっともよく見られる場所は、確かに神社です。

しかし実際には、それ以外の場所でも見ることが出来ます。

まずは寺院です。

例えば、日本で現存最古級、9世紀前半にまで遡るとされる狛犬は、京都の教王護国寺(東寺)に伝来したものです。

また、最も古い石造狛犬は奈良の東大寺南大門内にあります。宋人石工・伊行末によって建久七年(1196)に造られたとされています。

同様に、東京都内で最古の石造参道狛犬は目黒不動尊(瀧泉寺)にあります。こちらは承応三年(1654)寄進のものです。

これは当然のことで、日本では仏教と神道を補完的に捉える神仏習合の考えが長く流布されていました。現在のように仏教と神道を完全に分けて考えるようになるのは、明治初年(1868)の神仏分離令以降のことです。

それ以前には、寺院と神社も補完的に存在していました。寺院の鎮守として神社が設置されたり、神社が設置した神宮寺と呼ばれるものもありました。

その名残として、現在でも寺院と神社が隣接して立地している場所は少なくありません。

ですから、寺院に狛犬があることは不思議でもなんでもありません。

また、狛犬は御所にも存在しています。

紫宸殿の賢聖障子に描かれたり、御簾や几帳の鎮子として置かれたりしたことが知られています。

また、かつては天皇の即位式の調度として設置されたりもしていました。

というように、狛犬は神社だけのものではありません。

したがっては、

1)狛犬は神聖な場所に置かれる。

とした方が、実態と合うでしょう。

2007年8月24日 (金)

狛犬の特徴

さて、本家「狛犬考」に倣って、初めは狛犬の源流について考えてみたいのですが、その前に、狛犬とはどういうものなのか、簡単に定義しておきたいと思います。

定義しないことには、源流をたどるにしても、何を追いかけていいのか分かりませんから。

 

まずは、実際に≪狛犬≫と呼ばれているものを頭に思い描きながら、直感的に狛犬の特徴を挙げて見ましょう。

 

1)神社に置かれている。

2)参道に置かれている。

3)石で出来ている。

4)2体で左右1対になっている。

5)口開いたものと閉じたものがいる。

6)たてがみがあり、牙と鍵爪を持つ猛獣である。

こんなところでしょうか。

 

もちろん、「直感的」と言いつつ、予備知識に基づいて、話を展開しやすいような項目の立て方をしているわけですが、とりあえず過不足はないものと思います。

以下、この6項目について、それぞれ検討してみます。